🏦 預貯金

貸金庫の相続手続き完全ガイド:開扉・検認・中身の取り出しまで

「鍵はあるのに開けてくれない」。銀行で最も手続きが厳しい貸金庫。公証人の手配、遺言書が見つかった場合の家庭裁判所検認、そして空っぽだった場合のリスクを解説。

📅
⏱️ この記事の読了目安: 約5分

銀行における「開かずの間」を攻略せよ

通帳やカードが見つかり、銀行の手続きを進めている最中、ふと通帳の摘要欄に「カシキンコ」「手数料」という謎の引き落としを見つけることがあります。 あるいは、実家の書斎の奥から、見たこともない重厚な鍵が2本出てくることがあります。

それが、貸金庫(Safe Deposit Box)の存在を知らせるサインです。

貸金庫の中には、故人が「誰にも見せたくない」と守り抜いた財産や秘密が眠っています。権利証、実印、貴金属、家族への手紙、そして遺言書。 しかし、これを取り出す手続きは、通常の預金解約よりも遥かにハードルが高く設定されています。

本記事では、貸金庫を開けるための厳格なルールと、中身を取り出すまでの具体的なステップを解説します。


1. なぜ貸金庫は「即時凍結」されるのか

貸金庫契約は、銀行にお金を預ける契約ではなく、「場所を借りて物を置く(賃貸借および寄託)」契約です。 銀行側は「中に何が入っているか知らない」というスタンスを取っています。

銀行側のリスク管理:中身の紛失・盗難騒ぎ

もし銀行が、相続人の一人(例えば長男)だけを特別扱いして金庫室に入れ、その長男が中から「1億円相当のダイヤモンド」を持ち去ったとしたらどうなるでしょうか? 後で次男から「親父はダイヤを持っていたはずだ。銀行が管理を怠ったせいだ」と訴えられたら、銀行は言い逃れできません。

だからこそ、銀行は名義人の死亡を知った瞬間、金庫の鍵穴に物理的なロック(封印)を施し、「相続人全員の同意(または代表者の選任)」がない限り、開扉に応じないのが原則です(※カタログ作成のための点検のみを認める例もありますが、銀行によります)。


2. 開扉(オープン)のための2つのルート

貸金庫を開けるには、大きく分けて2つの方法があります。

ルートA:相続人全員で立ち会う【王道】

最もトラブルが少なく、銀行も推奨する方法です。

  • 方法: 相続人全員がスケジュールを合わせ、銀行の金庫室前に集合します。
  • メリット: その場で全員が中身を確認するため、「誰かが抜き取った」という疑念が生じません。
  • デメリット: 遠方に住んでいる、不仲で顔も合わせたくない兄弟がいる場合は実現不可能です。

ルートB:代表者が開ける(全員の実印が必要)

代表者一人が銀行に行きますが、事前に「他の全員からの同意書(実印+印鑑証明書)」が必要です。

  • 銀行の対応: 銀行によっては、「中身を確認・点検するだけ」なら代表者のみでOKとする場合もあれば、「何かを持ち出す」なら全員の同意が必要とする場合など、運用が分かれます。必ず事前に「点検(カタログ作成)」と「持ち出し」の要件を確認してください。

【奥の手】公証人による「事実実験公正証書」

どうしても他の相続人が協力してくれない場合、公証人に依頼して立ち会ってもらい、中身を記録・証明してもらう方法があります。

  • 費用は数万円かかりますが、「第三者立ち会いのもとで開けた」という強力な証拠になります。

3. 実践フロー:当日の持ち物と手順

当日は特別な応接室に通され、支店長や次席クラスの行員が立ち会う厳重な雰囲気の中で行われます。

当日の持ち物リスト

  • [ ] 貸金庫の鍵(正・副の2本):紛失している場合は、鍵のシリンダー交換費用(数万円)を請求されます。
  • [ ] 届出印:生前に使用していた印鑑があれば持参。
  • [ ] 相続人全員の戸籍一式
  • [ ] 相続人全員の印鑑証明書
  • [ ] 実印
  • [ ] 本人確認書類

いざ、開扉!

  1. 金庫室(または応接室)で、行員立ち合いのもと、箱を開けます。
  2. 中身を全て机の上に出し、リスト(目録)を作成します。
    • 現金 ○○○円
    • 権利証(〇〇不動産)
    • 貴金属(指輪、時計など)
    • 遺言書(封印あり)
  3. 中身をどうするか決めます。
    • 遺言書: 絶対にその場で開封してはいけません(後述)。
    • 財産: 遺産分割協議が終わっていない場合、一旦金庫に戻すか、代表者が「預かり証」を書いて持ち帰るかになります。

4. 警告!遺言書が出てきた時の「絶対禁止ルール」

貸金庫から「遺言書」が出てくる確率は非常に高いです。 しかし、封筒に封がしてある場合、その場でペリッと開けることは法律で禁止されています(民法1004条)

家庭裁判所での「検認」が必要

見つけた遺言書は、そのまま封筒ごと家庭裁判所に持ち込み、「検認(けんにん)」という手続きを経なければなりません。

  • 理由: 「発見された時点でどのような状態だったか」を裁判所が記録することで、その後の改ざんや隠蔽を防ぐためです。
  • 罰則: 検認を経ずに開封すると「5万円以下の過料」に処されます。また、他の相続人から「お前が中身を書き換えたんだろう」と疑われ、遺言の効力自体が争われるトラブルになります。

例外: 公正証書遺言(原本が公証役場にあるもの)や、法務局の自筆証書遺言保管制度を利用しているものは、検認不要ですぐに開封できます。


5. 解約手続きと未払い賃料

中身を全て取り出した後は、貸金庫契約自体を解約(終了)させます。

  • 賃料の精算: 貸金庫の使用料は、通常「半年払い」や「年払い」で口座から引き落とされています。死亡してから解約するまでの期間(数ヶ月分)の日割り賃料を精算する必要があります。
  • 保証金の返還: 契約時に預けた保証金(敷金のようなもの)があれば、返還されます。これも相続財産の一部です。

6. まとめ:パンドラの箱を開ける勇気

貸金庫を開けることは、単なる事務手続き以上の意味を持ちます。 故人が最期まで守りたかった「想い」や、あるいは家族に見せたくなかった「秘密」と対面する瞬間だからです。

中身を確認したら、次はそれらの財産評価です。特に「ネット銀行」などのデジタル遺産は見落としがちです。 ネット銀行・デジタル遺産の探し方(Article 13) で、見えない資産の探索方法を学びましょう。

👩‍💼
相続のプロ
解説をお読みいただきありがとうございます!
全体の流れがつかめたら、次は実際に手元にある通帳やカードの手続きに進みましょう。
各金融機関ごとの必要書類や窓口情報をまとめてあります。

具体的な手続き方法を調べる

金融機関ごとの詳細なマニュアルをご用意しています