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実家の家業(非上場株式)を相続したら?換金不能リスクと「事業承継」の基礎

「父が社長だった」「親戚の会社の株を持っていた」。市場で売れない同族株の恐怖。配当還元方式による評価と、会社への買取請求(金庫株)テクニック。

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その株、紙切れではありません。爆弾です。

「実家のタンスから、古い株券が出てきた」 「父は小さな工場の社長だったが、会社は赤字だし価値はないだろう」

そう思って相続税申告を無視していると、ある日税務署から電話がかかってきます。 「この株式、評価額は1億円になりますので、相続税3,000万円を払ってください」

世の中の99%を占める「非上場企業(中小企業)」。その株式は、証券取引所では売れませんが、税務上は驚くほど高額に評価されることがあります。 「換金できないのに税金だけ高い」 これが非上場株式相続の最大の恐怖です。

本記事では、経営者一族だけでなく、付き合いで株を持たされていた少数株主も対象に、非上場株の処理方法を解説します。


1. なぜ「売れない株」が高いのか?(評価の仕組み)

上場株式なら「株価×株数」で簡単ですが、非上場株式の評価は非常に複雑です。

① 原則的評価(会社を支配する場合)

社長一族などが株を引き継ぐ場合、以下の2つの方式で厳しく評価されます。

  • 純資産価額方式: 「会社を今解散したらいくら残るか?」で計算します。
    • 会社が長年コツコツ利益を出し、内部留保(利益剰余金)を貯め込んでいると高くなります。
    • 会社名義で持っている土地(工場・自社ビル)が、購入時より値上がりしていると高くなります。
  • 類似業種比準方式: 上場している似たような会社(モデル企業)と比較して計算します。
    • リスク: 1株5万円の額面株式が、50万円〜100万円の評価になることもザラです。

② 特例的評価(少数株主の場合)

経営に関与しない親戚や従業員が引き継ぐ場合は、「配当還元方式」というボーナス評価が使えます。

  • 仕組み: 「配当金(お小遣い)をもらうだけの存在」とみなし、配当額から逆算して低く評価します。
  • 結果: 原則的評価の1/10以下になることも多く、税負担は軽くなります。あなたが「どの立場(支配株主か少数株主か)」かによって、評価額が大きく異なります。

2. 【Case Study】「家業」を巡るリスク事例

[Case Study 1] 放置していた「名義株」で納税破水寸前

父が経営していた工場の株。長男はサラリーマンで、会社を継ぐ気はなく放置していた。

  • 結末: 税務調査で、工場の立地が商業地域になっており、土地評価額が高騰していることが判明。株価総額2億円。長男は株を誰にも売れないまま、相続税6,000万円の支払義務を負い、自宅を売却して納税する羽目になった。「儲かっていない会社」と「資産価値のない会社」はイコールではない。

[Case Study 2] 「自己株式取得」で現金を捻出

父の急逝により、予期せず会社を継いだ。相続税資金がない。

  • 解決策: 会社(法人)にお金があったため、相続した株の一部を会社に買い取ってもらった(金庫株)
  • 税制優遇: 通常なら「みなし配当」として最高55%の税金がかかるところ、相続特例(死亡から3年10ヶ月以内)により20%の税金で済んだ。会社のお金を合法的に個人に移し、納税資金を確保した好例。

3. 換金不可能な株を処分する3つのルート

市場で売れない株を現金化するには、以下の相手と交渉するしかありません。

ルート1:発行会社に買い取らせる(売渡請求)

最も現実的です。 多くの中小企業では、定款に「相続人に対する売渡請求権」を定めており、会社側から強制的に買い取る(経営権分散を防ぐ)ことができるようになっています。 むしろこれを逆手に取り、「相続税が払えないので、定款に基づいて買い取ってください」と頼み込みます。

ルート2:支配株主(社長・後継者)に売る

経営権を盤石にしたい社長個人に買い取ってもらいます。 価格交渉(いくらで売るか)が難航しがちですが、実印代(ハンコ代)程度でも、将来のリスクを考えれば手放したほうがマシな場合もあります。

ルート3:クーデター(M&A)

もしあなたが大株主(過半数保有)なら、会社ごと第三者に売却(M&A)しまうことも可能です。 最近は「後継者不在」の黒字企業を買いたいというニーズが高まっており、意外な高値で売れることもあります。

【相談用台本:会社へ買取を打診する時】

「父の株を相続しましたが、私は経営に関与できませんし、株式が分散するのは御社にとってもリスクかと思います。つきましては、御社の自己株式として買い取っていただくか、社長個人に譲渡したいと考えております。税理士と相談した評価額の試算はこちらです...」


4. 「事業承継税制」という両刃の剣

「会社を継ぐと相続税が大変」という声に応え、国が用意した特例制度です。 ニュースで「相続税ゼロ」と宣伝されていますが、安易に飛びつくのは危険です。

  • メリット: 後継者が取得する自社株にかかる相続税・贈与税が、実質100%猶予(ゼロ)になります。
  • デメリット: 要件が極めて厳しいです。「5年間雇用を維持する」「都道府県に計画書を出す」「毎年報告する」などの条件を1つでも破ると、猶予されていた税金が利子付きで一括請求されます。
    • 注意: 一度適用を受けると、会社を畳みたくても畳めない「辞められない」状況に陥る可能性があります。必ず税理士と入念にシミュレーションしてください。

5. 【FAQ】非上場株サバイバルガイド

Q. 親戚の会社の株、持っているだけでリスクはありますか? A. あります。 会社が銀行から融資を受ける際、株主(親)が「連帯保証人」になっているケースが多いです。株を相続すると、気づかぬうちにこの保証債務も引き継いでいる可能性があります。株の価値だけでなく、会社の借金の保証状況も確認必須です。もし保証額が巨額なら、相続放棄を検討すべきです。

Q. 決算書を見せてもらえません。 A. 株主の権利を行使しましょう。 株式を3%以上持っていれば「会計帳簿閲覧権」があります。弁護士を通じて内容証明を送れば、会社は拒否できません。「見せないなら、裁判所に申し立てます」と言えば、多くの会社は折れます。

Q. 相続税を払うために、国に「株」を納める(物納)ことはできますか? A. 理論上は可能ですが、ほぼ無理です。 非上場株の物納はハードルが極めて高く、国は「換金困難な資産」として受け取りを嫌がります。「延納(分割払い)」を勧められるのがオチです。まずは「会社への売却」を最優先に動くべきです。


6. まとめ:経営者家族の責任と覚悟

非上場株式の相続は、単なる財産分与ではなく、「事業の継続」そのものです。

  1. 株の価値を知る(税理士に試算してもらう)。
  2. 誰が継ぐか決める(分散させない)。
  3. 納税資金を確保する(自社株買い等を活用)。

この3つを先送りにしてはいけません。 会社は生き物です。株主不在の空白期間が続けば、従業員や取引先が離れ、価値そのものが消滅します。

国内の特殊な資産については以上です。 次は、国境を越えた資産。 海外銀行・海外不動産・米国株の相続(Article 31) へ進みましょう。

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