突然、知らない土地について法務局から通知が届くことがある
ある日突然、法務局から「長期間相続登記がされていないことの通知(お知らせ)」が届くことがあります。
「この土地を持っている覚えがない」 「亡くなった祖父や曽祖父の名前が書かれている」 「自分以外にも相続人がいるはずなのに、なぜ自分だけに届いたのか」 「放置するとすぐ罰金になるのか」
と不安になる方も多いでしょう。
この通知は、長期間にわたり相続登記がされていない土地について、法務局が登記名義人の法定相続人を調査し、その中の一人に相続登記を促すために送っている実在する公的な通知です。
大阪法務局も2026年9月9日に、この通知に関するQ&Aを更新しました。そこでは、通知は長期間相続登記がされていない土地について法定相続人を探索した結果、そのうちの任意の一人に送付していること、そして2024年4月1日から相続登記が義務化されていることが改めて案内されています。
ただし、「通知が届いた=直ちに10万円を払う」「通知を受け取った人だけが全責任を負う」わけではありません。
まずは通知の意味と、自分にどの期限が適用されるのかを分けて確認することが大切です。
1. 「長期間相続登記がされていないことの通知」とは
土地の登記名義人が亡くなった後も相続登記がされないまま何十年も経過すると、登記簿を見ても現在の所有者が分からなくなります。
こうした「所有者不明土地」の解消を目的として、全国の法務局では長期間相続登記が行われていない土地について、戸籍などを調査して法定相続人を探索する事業を行っています。
その結果判明した相続人に送られるのが、今回の通知です。
なぜ自分だけに届いたのか
法定相続人が複数いる場合でも、通知が全員に送られるとは限りません。
大阪法務局は、調査対象不動産の近くに住んでいる人や、親等が近く登記名義人を知っていると思われる人など、法定相続人の中の任意の一人に通知すると説明しています。
つまり、あなたに通知が届いたからといって、
- あなたが単独で土地を相続した
- 他の相続人の権利がなくなった
- あなた一人で登記費用を負担しなければならない
という意味ではありません。
まずは「自分以外に誰が相続人なのか」を確認する必要があります。
2. 本物の通知なら「費用を振り込め」とは書かれていない
法務局の公式案内では、この長期相続登記等未了土地解消事業に関連して、法務局が費用の振り込みを求めたり、金銭を請求したりすることはないと繰り返し注意喚起されています。
したがって、似た名前の書面が届いても、
- 指定口座への振り込みを求める
- 電子マネーや暗号資産での支払いを求める
- 不審なURLから個人情報やカード情報の入力を求める
といった内容があれば、そのまま応じないでください。
不安な場合は、書面に記載された電話番号だけを信用するのではなく、管轄の法務局を公式サイトで確認し、代表番号などから問い合わせると安全です。
3. 最重要:2027年3月31日が期限になる人と、ならない人
相続登記は2024年4月1日から義務化されています。
基本ルールは、相続によって不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請することです。
そして、2024年4月1日より前に発生した相続も対象になっています。
2027年3月31日までに登記が必要となる典型例
2024年4月1日より前から、
- 親や祖父母が亡くなっていたことを知っていた
- その相続で自分が不動産を取得したことも知っていた
- しかし相続登記をしていなかった
という場合、原則として2027年3月31日までに相続登記をする必要があります。
2026年9月現在、この期限まで残された期間は半年余りです。
通知で初めて土地の存在を知った場合は注意
一方で、何世代も相続登記がされておらず、今回の通知によって初めて「自分が相続でこの不動産を取得したこと」を知ったケースもあります。
法務省は、2024年4月1日より前に相続が始まっていた場合でも、不動産を相続で取得したことを知った日が2024年4月以降であれば、その日から3年以内が期限になると説明しています。
したがって、通知を受け取った全員について機械的に「2027年3月31日が期限」と判断するのは正確ではありません。
いつ相続が発生したかだけでなく、「いつ自分がその不動産を相続で取得したことを知ったか」も重要です。
期限の判断に迷う場合は、通知に記載された法務局や司法書士へ早めに相談してください。
4. 放置するとすぐ10万円の過料になる?
相続登記の申請義務を、正当な理由なく履行しなかった場合は、10万円以下の過料の対象となる可能性があります。
ただし、期限を1日過ぎた瞬間に自動的に10万円が請求される仕組みではありません。
法務省の案内では、登記官が義務違反を把握した場合、まず相当の期間を定めて相続登記を申請するよう催告し、それでも正当な理由なく申請しなかった場合に、管轄の地方裁判所へ通知する仕組みとされています。
また、今回の「長期間相続登記がされていないことの通知」は、長期相続登記等未了土地解消事業として送られているもので、この通知そのものが過料の請求書というわけではありません。
とはいえ、相続登記の義務は別に存在します。
「罰金ではないなら放置してよい」と考えるのではなく、通知をきっかけに期限と相続関係を確認するのが安全です。
5. 通知が届いたら最初にやる5つのこと
① 通知に書かれている土地を確認する
まず、所在・地番などを確認します。
住居表示の「○丁目○番○号」と、不動産登記で使う「地番」は一致しないことがあります。見覚えのない表記でも、昔の実家、田畑、山林、私道の持分などである可能性があります。
② 登記名義人が誰なのか確認する
祖父、曽祖父、さらに前の世代の名義が残っていることもあります。
世代が一つ増えるたびに相続人の人数が増え、必要な戸籍も複雑になります。
戸籍の収集については、AfterKeyの戸籍の集め方ガイドも参考にしてください。
③ 「法定相続人情報」を取得する
この事業では、法務局が戸籍等を調査した結果をまとめた「法定相続人情報」が作成されていることがあります。
通知を受け取った相続人は、法務局でその情報を出力した書面を取得できます。法務局の案内では手数料は無料とされています。
この情報を使うことで、「誰が法定相続人なのか」を一から調べる負担を減らせる場合があります。
ただし、法務局が調査した後に相続人が亡くなった、住所が変わったなどの事情がある場合は、追加の戸籍や住民票が必要になることがあります。
④ 他の相続人に連絡する
通知を受け取った人は、相続人の代表として選任されたわけではありません。
遺産分割が必要な場合は、他の相続人と連絡を取り、不動産を誰が取得するのかを決めます。
遺産分割協議の基本については遺産分割協議書の作り方も確認してください。
⑤ 期限までに通常の相続登記が難しいなら「相続人申告登記」を検討する
相続人が多数いる、遺産分割がまとまらない、必要書類がそろわないなどの事情で、3年以内に通常の相続登記を完了するのが難しい場合があります。
そのために設けられたのが相続人申告登記です。
6. 遺産分割が終わっていなくても「相続人申告登記」で義務を履行できる
相続人申告登記は、相続登記の義務化に合わせて作られた制度です。
法務省は、期限内に通常の相続登記をすることが難しい場合に、簡易に申請義務を履行するための仕組みとして案内しています。
通常の相続登記では、被相続人の出生から死亡までの戸籍を集めて法定相続人を確定するなど、多くの書類が必要になることがあります。
相続人申告登記では、
- 登記名義人について相続が開始したこと
- 自分がその相続人であること
を申し出ることで、申請義務を履行できます。
ただし「不動産を自分の名義にした」ことにはならない
ここは重要です。
相続人申告登記は、相続人であることを登記簿上に示して申請義務を履行するための制度であり、不動産の権利関係を確定させる通常の相続登記とは異なります。
そのため、
- 不動産を売却する
- 抵当権を設定する
- 遺産分割の結果に基づいて所有者を確定する
といった場合には、別途、通常の相続登記が必要です。
「期限が迫っているが遺産分割が終わらない」というときの応急的な選択肢として理解すると分かりやすいでしょう。
7. 「他にも知らない土地があるかも」は2026年開始の新制度で調べやすくなった
一つ古い土地が見つかると、次に心配になるのが、
「亡くなった人の名義で、ほかにも知らない不動産が残っていないか」
という問題です。
これまで、不動産の登記記録は土地・建物ごとに管理されており、「この人が全国でどの不動産を持っているか」を一覧で調べる仕組みはありませんでした。
しかし、2026年2月2日から「所有不動産記録証明制度」が始まりました。
この制度を使うと、本人や相続人などが法務局へ請求し、特定の人が所有権の登記名義人として記録されている不動産を一覧化した証明書を取得できます。
今回の通知をきっかけに、亡くなった親や祖父母について「ほかにも土地がありそう」と感じた場合には、有力な確認方法です。
検索には限界もある
所有不動産記録証明書は万能ではありません。
登記簿上の氏名・住所と、請求時に指定した検索条件が一致していない不動産は抽出されないことがあります。
たとえば、
- 昔の住所のまま登記されている
- 旧字体と新字体が混在している
- 結婚前の氏名で登記されている
などの場合には注意が必要です。
古い住所が分かる資料や戸籍の附票などを確認しながら検索条件を考えるとよいでしょう。
8. 相続人が多い・何世代も未登記なら、早めに専門家へ
長期間相続登記がされていない土地は、普通の相続より難しくなりやすい傾向があります。
たとえば、曽祖父の名義の土地を放置している間に、
曽祖父が死亡 → 子ども3人が相続人 → そのうち2人が死亡 → それぞれの配偶者・子が相続人 → さらに次の相続が発生
ということが起きると、現在の法定相続人が10人、20人と増えることもあります。
連絡先が分からない相続人がいる、海外居住者がいる、認知症の相続人がいる、遺産分割をめぐって対立している、といった場合はさらに複雑です。
このような場合、相続登記の専門家である司法書士への相談を早めに検討してください。
「まだ期限まで数か月ある」と思っても、戸籍集めや相続人への連絡だけで時間がかかることがあります。
9. 通知が届いたときの対応チェックリスト
通知を受け取ったら、次の順番で整理すると混乱しにくくなります。
- 本当に法務局からの通知か確認する
- 通知に記載された土地・登記名義人を確認する
- 法定相続人情報を取得し、他の相続人を確認する
- 自分がその不動産を相続で取得したことをいつ知ったか整理する
- 自分に適用される相続登記の期限を確認する
- 遺産分割が必要なら他の相続人と協議する
- 期限までに通常の相続登記が難しければ相続人申告登記を検討する
- ほかの不動産も心配なら所有不動産記録証明制度を利用する
- 複雑な案件は法務局や司法書士へ相談する
相続手続き全体の優先順位については、親族が亡くなった時の手続き完全ガイドも併せてご覧ください。
まとめ:通知は「今のうちに相続関係を整理してください」という重要なサイン
「長期間相続登記がされていないことの通知」は、法務局が長期間未登記の土地の法定相続人を調査した結果、その中の一人に送っているものです。
通知を受け取っただけで土地が自動的にあなた一人のものになるわけでも、直ちに過料が科されるわけでもありません。
しかし、2024年4月から相続登記そのものは義務化されています。
特に、2024年4月1日より前から相続で不動産を取得したことを知っていた方は、原則として2027年3月31日が重要な期限です。
一方、今回の通知で初めて不動産を相続で取得したことを知った場合などは、期限の起算点が異なることがあります。
通知を放置せず、
土地を確認する → 相続人を確認する → 自分の期限を確認する → 必要な登記を進める
という順番で対応してください。
期限内に通常の相続登記が難しい場合には相続人申告登記があり、亡くなった人の不動産を把握できていない場合には2026年から始まった所有不動産記録証明制度も利用できます。
制度が大きく変わった今こそ、何世代も残っていた未登記の相続を整理する機会です。