銀行ごとに戸籍一式を出すのが大変なら、最初に作っておきたい書類
家族が亡くなった後の相続手続では、同じ戸籍書類を何度も求められることがあります。
たとえば、
- 銀行Aで預金の相続
- 銀行Bで残高証明書を取得
- 証券会社で口座の相続
- 法務局で不動産の相続登記
- 税務署へ相続税申告
- 年金事務所で未支給年金などの手続
と進める場合、それぞれの窓口から「亡くなった方の出生から死亡までの戸籍」「相続人の戸籍」などを求められることがあります。
戸籍の束を窓口ごとに提出し、返却を待って次の手続へ進むと、相続全体に時間がかかります。
そこで知っておきたいのが、法務局の法定相続情報証明制度です。
相続関係を1枚の図にまとめた「法定相続情報一覧図」を法務局へ提出し、登記官の確認を受けると、認証文付きの一覧図の写しを無料で受け取れます。
この写しは、相続登記だけでなく、預貯金の払戻し、相続税、年金、自動車登録など、さまざまな相続手続で戸籍一式の代わりとして利用できます。
2026年9月9日には横浜地方法務局も制度案内を更新しています。相続登記義務化の経過措置期限である2027年3月31日も近づいており、複数の相続手続きを並行して進める方には特に役立つ制度です。
1. 法定相続情報一覧図とは
法定相続情報一覧図は、亡くなった方と法定相続人の関係を一覧にした書面です。
相続人が、
- 戸除籍謄本など必要書類を集める
- 相続関係を一覧図にする
- 法務局へ申出をする
- 登記官が戸籍の内容と一覧図を確認する
という流れで手続きを行います。
内容に問題がなければ、登記官の認証文が付いた「法定相続情報一覧図の写し」が交付されます。
戸籍そのものが不要になる制度ではない
ここは誤解しやすいところです。
法定相続情報一覧図を作る最初の段階では、亡くなった方の出生から死亡までの戸除籍謄本など、相続関係を確認するための戸籍書類が必要です。
つまり、
最初に戸籍を一式集める → 法務局で一覧図にまとめる → その後の手続で一覧図を使う
という制度です。
戸籍の集め方は、AfterKeyの相続で必要な戸籍の集め方ガイドも参考にしてください。
2. 最大のメリットは「戸籍の束を窓口ごとに出し直さなくてよい」こと
法務局は、法定相続情報一覧図の写しについて、相続登記のほか、被相続人名義の預貯金の払戻し、相続税の申告、死亡に起因する年金等の手続などに利用できると案内しています。
大阪法務局の2026年7月の案内では、さらに銀行、相続税、年金、自動車登録などの各種相続手続に利用できることが紹介されています。
特に便利なのは金融機関が複数ある場合
故人が複数の銀行や証券会社を利用していると、それぞれの金融機関で相続関係の確認が必要になります。
法定相続情報一覧図の写しを用意しておけば、戸籍の原本一式を1社ずつ回すよりも並行して手続きを進めやすくなります。
故人がどの銀行を利用していたか分からない場合は、先に相続時口座照会の使い方で口座の所在を確認し、金融機関が判明した後に一覧図を活用する方法もあります。
ただし、一覧図だけですべての相続手続が完結するわけではありません。
金融機関によっては、遺産分割協議書、印鑑証明書、金融機関独自の相続届などが別途必要です。必要書類は必ず提出先に確認してください。
3. 法務局への手数料は無料
法定相続情報証明制度の利用手数料は無料です。
登記官が認証した一覧図の写しについても、法務局は無料で交付すると案内しています。
相続手続が多い場合、戸籍そのものを金融機関の数だけ余分に取得するより、一覧図を利用した方が書類管理がしやすくなります。
なお、制度そのものは無料でも、
- 戸籍・除籍謄本の取得費用
- 住民票等の取得費用
- 郵送する場合の郵便料金
- 専門家へ依頼する場合の報酬
などは別途かかります。
4. 申出ができるのは誰?
法務局の案内では、法定相続情報証明制度を利用できるのは、原則として被相続人の相続人、またはその相続人です。
申出人本人が手続するほか、委任によって代理人へ依頼することもできます。
代理人になれる人として、法務局は親族のほか、
- 弁護士
- 司法書士
- 土地家屋調査士
- 税理士
- 社会保険労務士
- 弁理士
- 海事代理士
- 行政書士
を案内しています。
相続人が多い、代襲相続がある、兄弟姉妹が相続人になるなど、戸籍関係が複雑な場合は専門家へ依頼する選択肢もあります。
5. どこの法務局へ出せばいい?4つから選べる
法定相続情報一覧図の申出先は、全国どこの法務局でもよいわけではありません。
次のいずれかを管轄する登記所から選べます。
- 被相続人の本籍地(死亡時の本籍)
- 被相続人の最後の住所地
- 申出人の住所地
- 被相続人名義の不動産の所在地
自宅の近くにあるという理由だけでは対象にならない場合があるので、事前に管轄を確認してください。
郵送でも申出できる
法務局は、窓口だけでなく郵送による申出も受け付けています。
一覧図の写しや提出した戸籍類の返却も郵送で希望できます。その場合は、返信用封筒や切手などが必要です。
仕事などで平日に法務局へ行きにくい場合には便利です。
6. 一覧図を作るときの2つの重要ポイント
一覧図は、ただ相続人の名前を書けばよいわけではありません。
その後に何の手続で使うかを考えて作ることが重要です。
ポイント① 相続人の住所は記載しておくと便利
法定相続情報一覧図では、相続人の住所を記載するかどうかは任意です。
しかし法務局は、住所を記載しておくことで、その後の相続登記や遺言書情報証明書の交付請求などで、相続人の住所を証明する住民票の写しが不要になる場合があると案内しています。
今後、不動産の相続登記も行う予定なら、住所を記載するメリットは大きいでしょう。
ただし、一度一覧図の写しの交付を受けた後に住所が変わっても、住所変更だけを理由に一覧図を作り直す再申出はできません。
ポイント② 相続税申告をするなら「続柄」の書き方に注意
法務局の記載例では、被相続人との続柄を、戸籍に記載された続柄の代わりに単に「子」と記載することもできます。
ただし、法務局は、続柄を「子」と記載すると相続税の申告などで利用できない場合があると注意しています。
相続税申告で利用する可能性があるなら、戸籍に記載される続柄を使う方が安全です。
7. 2024年から「法定相続情報番号」で相続登記の紙添付を省略できる
法定相続情報一覧図を不動産の相続登記に使う場合、2024年4月1日から便利な仕組みが加わっています。
一覧図の右上には、登記官が付した法定相続情報番号が記載されます。
相続登記などの不動産登記申請では、この番号を申請書の添付情報欄に記載することで、一定の場合に法定相続情報一覧図の写しそのものの添付を省略できます。
紙の一覧図を法務局へ提出しなくても、法務局側で登録された情報を確認できる仕組みです。
相続登記義務化については、法務局から長期間相続登記の通知が届いた場合の対応でも詳しく説明しています。
8. 追加で必要になったら再交付できる。ただし「誰でも」ではない
「最初は銀行2行だけだと思っていたが、後から別の口座が見つかった」
「相続税申告でも使うことになった」
といった場合には、法定相続情報一覧図の写しを再交付してもらうことができます。
法務局では、法定相続情報一覧図を申出日の翌年から起算して5年間保存しています。この保存期間中であれば再交付を受けられます。
ただし、再交付を請求できるのは、原則として最初の申出で「申出人」となった人です。
ほかの相続人だからといって、自由に再交付を請求できるわけではありません。
家族内で誰を申出人にするか決める際は、「後から追加の写しが必要になったときに動きやすい人」にしておくと安心です。
再交付は、最初に申出をした法務局で行います。
9. 法定相続情報一覧図で証明できること・できないこと
法定相続情報一覧図は非常に便利ですが、万能な「相続証明書」ではありません。
この制度で法務局が確認するのは、戸除籍謄本などの記載に基づく法定相続人が誰かという情報です。
したがって、一覧図だけで、
- 誰が実際に預金を取得するのか
- 誰が不動産を相続するのか
- 遺産分割協議でどのような合意をしたのか
- 遺言で誰に何を渡すことになっているのか
まで証明できるわけではありません。
遺産分割を行った場合は、別途、遺産分割協議書などが必要になります。作成方法は遺産分割協議書の作り方も確認してください。
10. AfterKeyがおすすめする実務上の順番
複数の相続手続きを進める場合は、次のような順番にすると効率的です。
- 相続人を確認するための戸籍を集める
- 法定相続情報一覧図を作成して法務局へ申出する
- 必要な枚数の一覧図の写しを用意する
- 銀行・証券会社・年金・相続登記などを並行して進める
- 銀行では残高証明書などを取得する
- 必要に応じて遺産分割協議を行う
- 相続税申告・相続登記など期限のある手続きを完了する
預金の残高を確認する場合は残高証明書の取り方、銀行へ死亡を伝えた後の口座の扱いは銀行口座が凍結されたときの対応も参考にしてください。
相続手続全体の流れがまだ整理できていない場合は、親族が亡くなった時の手続き完全ガイドから確認すると分かりやすいです。
よくある質問
Q. 不動産を持っていない人でも利用できますか?
法定相続情報一覧図は、銀行・相続税・年金など相続登記以外の手続にも利用できます。申出先には「被相続人名義の不動産の所在地」以外にも、本籍地、最後の住所地、申出人の住所地があります。
Q. 戸籍を集めなくても一覧図を作れますか?
できません。最初の申出では、法定相続関係を確認するための戸除籍謄本等が必要です。一覧図は、戸籍集めを不要にする制度ではなく、その後の相続手続で戸籍の束を何度も提出する負担を減らす制度です。
Q. 銀行なら必ず一覧図だけで手続できますか?
金融機関によって必要書類は異なります。法定相続情報一覧図で戸籍一式の提出を省略できても、遺産分割協議書、印鑑証明書、相続届など別の書類が必要になることがあります。必ず利用先へ確認してください。
Q. 交付にお金はかかりますか?
法務局に支払う制度利用の手数料は無料です。ただし、戸籍や住民票の取得費用、郵送料、専門家へ依頼した場合の報酬などは別途必要です。
Q. 5年を過ぎたら再交付できませんか?
法務局は一覧図を申出日の翌年から起算して5年間保存し、その期間中は再交付を受けられると案内しています。保存期間を過ぎた場合は、再交付では対応できないため、必要に応じて改めて制度利用を検討することになります。
まとめ:戸籍を集めたら「次の一手」として検討する価値が高い
相続手続では、戸籍を集めること自体も大変ですが、その戸籍一式を銀行、証券会社、法務局、税務署などへ何度も提出することも大きな負担です。
法定相続情報証明制度を使えば、
- 戸籍一式を一度集める
- 法務局で相続関係を一覧図にする
- 認証済みの一覧図の写しを各手続に利用する
という形で整理できます。
制度利用は無料で、郵送申出も可能です。さらに2024年4月からは、不動産登記で法定相続情報番号を使うことで一覧図の写しの添付を省略できる仕組みも始まっています。
特に、銀行口座や不動産など相続手続の対象が複数ある家庭では、早い段階で法定相続情報一覧図を作っておくと、その後の事務を並行して進めやすくなります。
一方で、一覧図は「誰が法定相続人か」を示す書類であり、遺産分割の結果や遺言内容まで証明するものではありません。
一覧図で省略できる書類と、別途必要な書類を分けて考えながら手続きを進めてください。