通帳がない時代、「どこの銀行を使っていたか分からない」が相続の難所になる
親が亡くなったあと、相続人が最初につまずきやすいのが預貯金口座の確認です。
以前は、家の中にある通帳やキャッシュカードを見れば、取引していた金融機関をある程度把握できました。しかし現在は、ネット銀行や通帳レス口座が増え、紙の手がかりがほとんど残っていないことがあります。
「メインバンクは分かるけれど、ほかにも口座があった気がする」 「スマホに銀行アプリが入っているが、全部は確認できない」 「地方銀行や信用金庫にも昔の口座があるかもしれない」
こうしたときに利用できるのが、相続時預貯金口座照会(相続時口座照会)です。
2025年4月に始まった制度で、亡くなった方が生前にマイナンバーを付番していた預貯金口座について、相続人が一つの金融機関から申し込み、複数の金融機関にある口座の所在をまとめて確認できます。
便利な制度ですが、「故人の全口座が必ず見つかる」制度ではありません。
2026年3月31日にデジタル庁のFAQが更新され、必要事項や注意点が整理されています。利用する前に、何が分かり、何が分からないのかを理解しておきましょう。
1. 相続時口座照会とは
相続時口座照会は、口座管理法に基づく制度です。
亡くなった方(被相続人)が、生前に金融機関へマイナンバーを届け出て預貯金口座に付番していた場合、相続人は金融機関を通じて照会を申し込めます。
照会は預金保険機構を経由して行われ、対象となる金融機関から口座情報が集められます。
一番大きなメリット
従来は、故人が使っていた可能性のある金融機関を相続人が一つずつ探し、それぞれに問い合わせる必要がありました。
相続時口座照会を利用すれば、対象となる口座については、一度の申込みで複数金融機関の所在確認ができます。
特に、
- 通帳が見つからない
- ネット銀行を使っていた
- 転勤や引っ越しが多く、各地の銀行を使っていた
- 家族に資産の一覧を残していなかった
という場合に検討しやすい制度です。
ネット銀行などの手がかりを探す方法は、AfterKeyのネット銀行の相続とデジタル遺産調査も参考にしてください。
2. 重要:「すべての銀行口座」が見つかるわけではない
この制度で最も誤解しやすい点です。
相続時口座照会で確認できるのは、原則として被相続人のマイナンバーが付番されていた預貯金口座です。
たとえば、故人がA銀行にはマイナンバーを届けていたものの、B銀行には届けていなかった場合、B銀行に口座が存在していても照会結果に出てこない可能性があります。
デジタル庁は、預貯金口座へのマイナンバーの届出は任意であり、本人の届出なく自動的に付番されるものではないと説明しています。
公金受取口座を登録していても別制度
ここも要注意です。
マイナポータルなどで登録する公金受取口座と、金融機関へマイナンバーを届け出る預貯金口座付番制度は別の制度です。
公金受取口座を登録しているからといって、ほかの銀行口座に自動的にマイナンバーが付番されるわけではありません。
したがって、
「故人が公金受取口座を登録していたから、相続時口座照会ですべて分かる」
とは考えないようにしてください。
3. 一部の金融機関は照会手続きの対象外
デジタル庁は、相続時や災害時の預貯金口座情報の提供について、一部手続きの対象外となる金融機関を公表しています。
この一覧は2026年4月1日にも更新されています。
そのため、古い解説記事で「全国すべての金融機関を完全に一括照会できる」と説明されていても、現在の制度とは一致しない場合があります。
利用前には、デジタル庁の最新の対象外金融機関一覧を確認してください。
また、デジタル庁のFAQでは、金融機関における口座管理の状況によって、休眠口座など一部の口座にマイナンバーが付番されない場合があることも案内されています。
照会結果に出なかった=その金融機関に絶対に口座がない、とは言い切れません。
4. 誰が申し込める?相続人のうち1人でよい
デジタル庁のFAQでは、相続人が複数いる場合でも、相続人のうち1人で照会を申し込めるとされています。
包括受遺者も対象です。
そのため、相続人全員の署名や同意を集めてからでなければ照会できない、という制度ではありません。
申込みできる期間
相続時口座照会を利用できるのは、原則として被相続人が亡くなってから10年後までです。
古い相続で口座の所在が分からなくなっている場合は、死亡日を確認しておきましょう。
5. 故人のマイナンバーそのものは分からなくても申込みできる
「亡くなった親のマイナンバーカードが見つからない」 「個人番号が分からない」
という場合でも、それだけで相続時口座照会を諦める必要はありません。
デジタル庁は、相続時照会の申込みにあたり、被相続人のマイナンバーそのものは不要と案内しています。
必要なのは、
- 申請者の本人確認書類
- 被相続人の氏名・住所・生年月日など本人特定事項を確認できる書類
- 申請者が法定相続人または包括受遺者であることを確認できる書類
などです。
被相続人のマイナンバーは、預金保険機構が本人特定事項をもとに住民基本台帳ネットワークシステムから取得します。
住所表記の違いで照合できない場合がある
2026年3月31日に更新されたデジタル庁FAQでは、この照合について具体的な注意点も示されています。
たとえば、
- 「一丁目一番地一号」と「1-1-1」
- 「霞が関」と「霞ヶ関」
- 「髙」と「高」
など、住所や文字の表記が一致しないことで、本人確認の照合に失敗する場合があります。
申込書には、確認書類に記載された本人特定事項をできるだけそのまま記載するのが重要です。
6. 手数料は1件5,060円
相続時口座照会には、1件5,060円(税込)の手数料がかかります。
この金額は預金保険機構が定める金融機関共通の手数料として、複数の金融機関が案内しています。
原則として、照会した結果、対象となる口座が確認できなかった場合でも手数料がかかります。
ただし、被相続人のマイナンバーを預金保険機構で確認できず、制度上の照会を完了できなかった場合の返金の扱いなど、細部は申込先金融機関の案内を確認してください。
7. 結果で分かるのは「口座の所在」。残高までは分からない
照会結果は、預金保険機構から申込者へ郵送されます。
金融機関の案内では、結果にはおおむね次の情報が含まれます。
- 金融機関名
- 支店名
- 預貯金の種類
- 口座番号など
一方で、口座残高は照会結果に含まれません。
口座が判明したら、その金融機関で通常の相続手続きを開始し、必要に応じて残高証明書などを取得します。
相続税の申告や遺産分割のために死亡日時点の残高を確認したい場合は、残高証明書の取り方も参考にしてください。
結果が届くまでの目安
金融機関によって案内方法は異なりますが、auじぶん銀行では、申込みから結果通知まで1か月程度と案内しています。
急ぎの相続税申告などがある場合は、「一括照会の結果が来てから全部始める」のではなく、すでに判明している金融機関の相続手続きは並行して進めた方がよいでしょう。
8. 重要:照会をすると口座が止まる場合がある
相続時口座照会を申し込む前に、もう一つ知っておきたい点があります。
照会を行うと、対象となる金融機関に被相続人が死亡したことが通知されます。
その結果、金融機関によっては、故人名義の預貯金口座などについて取引停止の措置を行う場合があります。
きらぼし銀行は、他の金融機関で相続時口座照会が申し込まれ、同行に照会が来た場合、マイナンバーが届け出られている該当口座について取引を停止すると案内しています。
つまり、相続時口座照会は単なる「検索サービス」ではなく、金融機関へ死亡情報が伝わる手続きでもあります。
申込み前に確認しておきたいもの
故人の口座から、
- 電気・ガス・水道
- 家賃や管理費
- クレジットカード
- 通信料金
- 保険料
- サブスクリプション
などが継続して引き落とされていないか確認し、必要な契約変更・支払方法変更を進めてください。
口座凍結後の考え方は、AfterKeyの銀行口座が凍結されたときの対応も確認してください。
9. 相続時口座照会で「該当なし」でも調査を終わらせない
照会結果に口座が出てこなかったとしても、そこで調査を終わらせるのはおすすめできません。
この制度には、
- マイナンバー未付番の口座は原則として見つからない
- 一部の金融機関は手続きの対象外
- 口座管理状況などによって結果に反映されない場合がある
- 証券口座など、預貯金口座とは別の金融資産は別途確認が必要
という限界があります。
並行して、次のような手がかりも確認してください。
- 通帳・キャッシュカード
- 郵便物
- 銀行からのメール
- スマートフォンの銀行アプリ
- 他行口座からの振込・引落履歴
- 確定申告書や税務関係書類
故人のネット銀行を探す方法については、ネット銀行の相続とデジタル遺産調査で詳しく説明しています。
10. 口座が見つかった後は「各金融機関の相続手続き」が必要
相続時口座照会は、あくまで口座の所在を調べる制度です。
照会結果が届いただけで、
- 預金の払戻し
- 名義変更
- 残高証明書の発行
- 相続人への振込
が自動的に行われるわけではありません。
口座が判明した金融機関ごとに、改めて相続手続きを行います。
AfterKeyでは銀行、信用金庫、信用組合、JAなどの相続窓口を金融機関別に整理しています。AfterKeyトップページから金融機関名を検索し、必要書類や連絡先を確認してください。
11. 親が元気なうちなら「預貯金口座付番」をしておく価値がある
相続時口座照会は、亡くなった後に初めて使える制度ですが、その使いやすさは生前の準備で変わります。
本人が元気なうちに金融機関へマイナンバーを届け出ておけば、将来、相続人が口座の所在を確認しやすくなります。
預貯金口座付番は任意です。
金融機関またはマイナポータルから手続きでき、一部対象外の金融機関を除き、一度に複数金融機関へマイナンバーを届け出ることもできます。
ただし、一度付番が完了すると原則として取り消せないことや、金融機関に登録している氏名・住所・生年月日が最新でないと付番に失敗する場合がある点にも注意してください。
エンディングノートなどで金融機関名を家族に残しておく方法と組み合わせると、より確実です。
よくある質問
Q. 故人のマイナンバーカードが見つからなくても利用できますか?
相続時照会の申込みに、被相続人のマイナンバーそのものは不要です。ただし、制度で口座を確認できるためには、故人が生前に対象金融機関の預貯金口座へマイナンバーを付番していたことが前提です。
Q. 公金受取口座を登録していれば、全銀行を探せますか?
いいえ。公金受取口座登録制度と預貯金口座付番制度は別制度です。公金受取口座を登録しただけで、ほかの金融機関の口座に自動的にマイナンバーが付番されることはありません。
Q. 相続人全員の同意が必要ですか?
デジタル庁は、相続人が複数いる場合でも、そのうち1人で照会できると案内しています。
Q. 残高もまとめて分かりますか?
いいえ。照会結果で確認できるのは金融機関名、支店名、預貯金の種類、口座番号などで、残高は含まれません。口座が判明した後、各金融機関で残高証明書などを取得します。
Q. 証券会社の株や投資信託も一緒に見つかりますか?
この制度の対象は預貯金口座です。証券口座などは別途確認が必要です。故人が株式や投資信託を保有していた場合は、証券会社の相続窓口へ連絡してください。
まとめ:便利だが「完全な口座検索」ではない
相続時口座照会は、通帳レス・ネット銀行時代の相続で非常に役立つ制度です。
ポイントを整理すると、
- 2025年4月から利用できる
- 相続人のうち1人から申し込める
- 死亡後10年以内が対象
- 被相続人のマイナンバーそのものは申込み時に不要
- 手数料は1件5,060円(税込)
- 結果で分かるのは口座の所在で、残高は分からない
- 原則としてマイナンバー付番済みの預貯金口座だけが対象
- 一部手続きの対象外金融機関もある
- 照会によって金融機関に死亡が伝わり、取引停止になる場合がある
- 結果に出なかった口座が存在する可能性もある
という制度です。
「故人がどこの銀行を使っていたか分からない」という場合には強力な手段ですが、これだけで財産調査が完全に終わるわけではありません。
相続時口座照会を使いつつ、郵便物、メール、スマートフォン、既知の口座の入出金履歴なども併せて確認し、見落としを減らしていきましょう。