相続人が複数いると、「連絡しても返事がない」「財産調査に協力してくれない」ということがあります。
このとき、すべての作業が止まるわけではありません。相続では、財産を調べる段階と、誰が取得するかを決めて払い戻し・名義変更する段階で必要な同意が違います。
最初から「全員の実印がないと何も調べられない」と思い込まない方がよいでしょう。
財産調査は一人の相続人でも進められる場面がある
銀行や証券会社は、相続人本人であることを確認したうえで、故人の取引の有無や残高証明等について照会を受け付ける場合があります。
たとえば三井住友銀行は、故人の口座の有無や残高が分からない場合には店舗へ相談するよう案内しており、死亡の事実と手続きする人が相続人等であることを確認する書類が必要になります。
つまり、遺産分割協議が終わっていないからといって、財産目録を作るための調査まで必ず止まるとは限りません。
ただし、照会できる人、必要書類、過去の取引履歴をどこまで出してもらえるかは金融機関ごとに異なります。銀行ごとの案内は銀行一覧で確認できます。
証券会社が分からない場合は「ほふり」も検討できる
故人が株式等を持っていた可能性はあるものの、証券会社が分からない場合には、証券保管振替機構(ほふり)の「登録済加入者情報の開示請求」が手掛かりになることがあります。
亡くなった方について相続関係を証明して申し込む手続きが用意されており、開示時点で振替株式等の口座がある証券会社・信託銀行等を確認できます。
ただし、銘柄・残高・取引履歴や、すでに閉鎖した過去の口座までは分かりません。詳しくは故人の証券口座をほふりで調べる方法で整理しています。
「調べる」と「受け取る」は別
財産が見つかった後、故人の預金を誰か一人へ払い戻したり、株式を特定の相続人へ移管したりする段階では事情が変わります。
遺言書や遺産分割協議書がなく共同相続となる場合、銀行は相続人全員の署名・実印や印鑑証明書を求めることがあります。
三菱UFJ銀行も、遺言書・遺産分割協議書がない共同相続の一般的な必要書類として、法定相続人全員の署名・実印による捺印と、全員分の印鑑証明書を案内しています。
逆に、有効な遺言があり遺言執行者が指定されている場合などは、必要な署名者が変わることがあります。
大事なのは、「相続人の一人が協力しない=財産調査も不可能」ではない一方、「一人で調べられた=一人で解約して全部受け取れる」でもないということです。
急ぎの生活費などは別制度がある
遺産分割がまとまっていなくても、一定の範囲で各相続人が単独で預貯金の払戻しを求められる「遺産分割前の預貯金払戻し制度」があります。
家庭裁判所を通さない方法では、口座ごとに
相続開始時の預貯金額 × 1/3 × その相続人の法定相続分
で算出し、同一金融機関からの上限は150万円です。
これは遺産を自由に処分できる制度ではありませんが、他の相続人が手続きに参加しないため葬儀費用や当面の資金にも困る場合には確認する価値があります。
詳しくは預貯金の払戻し制度をご覧ください。
話し合いそのものができない場合
財産を調べても、最終的に分け方について合意できなければ遺産分割は終わりません。
裁判所は、相続人間で遺産分割の話し合いがつかない場合、相続人のうち一人または何人かが、他の相続人全員を相手方として家庭裁判所へ遺産分割調停を申し立てることができると案内しています。
調停で合意できなければ、自動的に審判手続へ移行し、裁判官が判断する流れになります。
ただし、調停を申し立てれば裁判所が故人の財産を全国から探し出してくれる、という意味ではありません。財産の範囲について争いがある場合には資料の収集も必要になるため、可能な範囲の財産調査は先に進めておく方が整理しやすくなります。
まずやること
相続人が協力してくれないときは、感情的な連絡を何度も重ねるより、次の順で整理すると状況が見えやすくなります。
- 自分が相続人であることを証明する戸籍等を用意する
- 心当たりの銀行・証券会社へ、単独で可能な調査範囲を確認する
- 財産目録を作る
- 遺言書の有無を確認する
- 調査結果を他の相続人へ共有し、遺産分割を提案する
- 合意できない場合は遺産分割調停等を検討する
相続人との関係が悪いほど、「調査」と「分割」を分けて考えることが重要です。
公式情報・確認先
この記事は2026年8月27日時点の公式情報を確認して作成しています。個別の相続関係・遺言内容によって必要な手続きは変わります。